ベンチャー企業を起業するための能力
昨今、アメリカのベンチャーブームの盛り上がりを受け、日本でもベンチャー企業が次々と設立されています。
ほとんど全てのベンチャー企業がIT・WEB関係の事業を主としており、テクノロジーを利用して既存の枠組みを壊し、ユーザーに対してより良いサービスを提供しようと日々切磋琢磨しています。
しかし、一般人が知り得るようなベンチャー企業は、有象無象のベンチャー企業の中のほんの一部の上澄みであり、ほとんどのベンチャー企業は倒産し、悲しいことに倒産したことも誰も知らないような末路を辿ってしまいます。
仮に生き残ったとしても、大半のベンチャーは主力事業が成功せず、受託案件で食いつなぐ、いわゆる下請け零細企業になってしまい、社長が必死で集めてきた「夢に向かうならば自己犠牲を惜しまない優秀な人材」も逃げ出してしまいます。
私は、世間では大企業と呼ばれる企業を退職し、知人と共にベンチャー企業を起業したのですが、自ら痛感したことを踏まえ、ベンチャー企業を起業するための能力を綴りたいと思います。
人を夢中にさせるような社長の信念、人脈を築き上げる能力
私がこれまで読了してきた全ての書籍綴られてきたことは「ベンチャー企業における人材確保の困難さ」であり、実際に私も痛感しました。その為、給料を全くモチベーションとしない人材を確保する為、給料の代わりに社長の信念に賛同してくれるような優秀な人材を採用しなくてはなりません。
「給料(株式)を目的とした優秀な人材」でも「社長の信念に賛同しているが、優秀ではない人材」というような、どちらかの条件が片落ちとなっている人材ではダメです。
例えば、ベンチャー企業の資本金は良くて1,000万だとすると、年収360万円の社員を一人雇用するだけで、1年間で大半の資本金を食い潰してしまいます。
年収360万円の社員の諸々の経費を含めると、会社は年収の1.5倍程の負担をしなければならないからです。
また、上記のようなリスクを冒して社員1人を採用したところで、その社員が優秀でなかったら労働法上、リストラすることも出来ない為、ただ銀行の口座残高が減っていくのを眺めるしかありません。
その為、社長の幅広い人脈から、針に糸を通すような慎重かつ緊張感のある人材を選定しなければなりません。私は、どんな人脈のある社長でも、この採用に成功している社長を見たことがありません。誰もが苦労していますし、ベンチャー企業を設立後、人材が1人も集まらず畳んだ例も知っています。
システムのセンス(システム理解能力)
オバマ大統領が演説で、国家を上げて子どもからのプログラミング力を向上させる政策を明言し、日本でも小学生のうちからのプログラミングの教育の重要性を理解し始めてきたかと考えています。
常識をひっくり返すようなWEBサービスは、最新のITを駆使しており、プログラマーではなくても、プログラミングを理解し、社長が情熱的に考えたシステムが0と1の世界であるシステム上で稼働する為に、システムの構想を矛盾なくロジカルに考え、プログラマーに論理的に伝える能力が必要です。
ベンチャー企業を起業してしまうような熱く情熱的な社長は、営業畑であることが非常に多いため、WEBサービスのなんとなくの構想を持っていても、それをアウトプットすることが出来ず、非常に苦労する人が多いです。
一方で、システムセンスさえ十分に持っていれば、人とのコミュニケーションが極度に苦手であるエンジニアでも、すぐに事業を始めることが出来るかと考えてます。
Facebookに代表されるように、テクノロジーで考えを実装できるスーパープレイヤーが存在すれば、イケイケの人間が何百人と集まっても、勝つことはできません。「いかにシステムを通じたレバレッジを利かせたWEBサービスを早く実装し、世に放つことが出来るか否か」がベンチャーの生き死にを握ってます。
資本政策を理解できる能力
誰がベンチャー企業の株式を何割保有するか、という資本政策を当初より練り込んで考えることは非常に重要です。
ベンチャー企業では、株式やストックオプションを巡って必ず内紛が起こるものであり、しっかりと株式を持つ人や企業(VC)と契約を結んでおかなければ、すぐに外部の組織にベンチャー企業が乗っ取られてしまいます。このような資本政策の事情は、「ベンチャー企業における資本政策の不可逆性」と呼ばれており、途中で絶対に変更することは出来ません。
仮にベンチャー企業が上場、または大企業に事業売却をするといったケースは、株式の1%が数百万、数千万の価値を持つことになり、ベンチャー企業創業時に安い価格で取得した株式を簡単に手放す人はいないでしょう。その為、社長は、信用できる有識者の知見を十分に活用し、資本政策を考える必要があります。
私は、3人が、33%ずつ株式を保有することにより創業したベンチャー企業において、そのうちの1人が退職したものの株式を保有したままとなり、以降も会社の意思決定に影響を及ぼし続けるケースを実際に見たことがあります。このような状況になったら最期、企業を社員のみの決定で清算することも出来なくなります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ベンチャー企業の起業では、十分なパッション(情熱)と同時に、情熱が全く通じないシステム構築センスも求められており、且つ財務や会計に強くなくてはなりません。
熱意のままに行動し、まさにベンチャー企業を起業しようとしている方も、今一度立ち止まって、システムや資本政策を少しだけ学んでみてはいかがでしょうか。深い内容を理解することは不要ですが、「このようなことを学ぶ必要がある」という情報を認識しておくだけで、今後の道筋が開けてくるかと考えています。